雑誌業務のアウトソーシング ←戻る
これは,『大学の図書館』(1997年12月号)アウトソーシング特集のために書いたものをもとに作成してあります。ここを起点にさらに発展させて行くつもりです
1.アウトソーシングの現状
「アウトソーシング」をキーワードにして検索してみると,日外Webの「雑誌記事索引」では120件,同じく「ジャーナルインデックス」では74件,TRCの新刊書籍検索では8件がヒットして,最近の流行であることがわかる。図書館業務でも外部委託が進行しているが,この状況は,図書館関連業界(図書館界,書店業界,出版産業,情報・データベース業界,目録代行入力業界など)における分業の再編成として捉えることができる。当初はアウトソーシングであった業務も,その多くはすでに「分業」として定着している。すでに分業化している図書館の業務について,思いつくままにあげてみる。
- 図書館システムに関しては,自館開発する図書館も少数は存在するが,ほとんどの図書館では,ハードメーカーやソフトウェアメーカーによって開発されている。
- 多くの公共図書館においては,資料購入先の書店が図書の整理及び装備を行っている。
- 雑誌論文の索引・抄録は,単館レベルの図書館でつくられることはなく,データベース会社によって編集・提供されている。
- 雑誌の購入手続きにしても,外国雑誌を海外の出版社及び学協会から直接購入している図書館はほとんど存在せず,もちろん,和雑誌は大学の生協や大学に出入りの書店が納入し,購入手続きは書店などが代行して行っている。
すでに分業化が定着している業務については,「餅は餅屋に任せる」ことに疑問をもつことはないが,現在,分業化が進行しつつある業務については,アウトソーシングの是非が議論されている。
- 図書を書店に注文してもなかなか入手できないので,宅配業者や電気店のダイイチなどが書籍の流通機構に新規参入してくる。
- 紙での出版はコストも時間もかかるうえ,管理や保管も大変なので,電子出版に期待が寄せられ,情報産業が出版業にも参入してくる。
- 外国雑誌については,各号の納入チェックを書店が行って,欠号請求をすませ,受付データを電子媒体で納入する「一括納入システム」【注1】が90年代に提供された。丸善MACS2,紀伊国屋書店のACCESSなどである。
2.雑誌業務のアウトソーシング
外国雑誌の「一括納入システム」は,大学図書館や企業図書館で5年以上の運用実績がある。にもかかわらず,図書館側からはアウトソーシングとして運用されず,雑誌業務の従来からの手法が大きく変わらない点について,書店側の指摘【注2】もある。雑誌業務のアウトソーシングについて図書館側の認識が不鮮明なのには,いくつか理由がある。
- アウトソーシングしてもその業務量が係員の1名分に満たない。
- 現地仕入れによる購読料の低減のみが強調され,付加的なサービスとして書店側で行うチェックインの費用を,書店側は付加価値サービスとして強調しなかった。
- 丸善の「Superちょいす君」及び紀伊國屋書店の「PLATON」などの「発注・受入・問合せ,予算管理システム」【注3】でも書店側が明確に打ち出したように,発注先を単独の書店に限定する「顧客の囲い込み戦略」に,図書館側が拒否反応を示した側面もある。
- 外資系の雑誌購読代理店の始めたチェックインサービスを,国内書店が技術的に後追いしただけで,学術雑誌流通にたいしての基本方針が提示できていない。これは価格面だけに偏った大学図書館側の対応を書店側が反映した結果であり,図書館側の責任も大きい。
個人的には,書店の提供する「一括納入システム」は,大手書店の寡占化を進行させ,図書館員の質を低下させる「小さな親切,大きなお世話」的サービスでしかないと考えている。確かに早期の欠号チェックと,現地からのクレームによる納入率の向上は認められるし,「一括納入システム」を使わなければ業務の成り立たない分室などの存在も伝え聞いている。しかし,以前の直送の時代と比べてどの程度改善されたのかの明確な数字は,書店側からも図書館側からも報告されていないし,5年間の間に購入価格の構造がどのように変化したのかの報告もないうえ,雑誌の購読価格の上昇などの根本的な問題には何ら改善の兆候がみられない。直送時代より価格的に上積みしないで,チェックインサービスが実現して,欠号も少ないし,封筒を開ける手間もいらないから「良し」とする,図書館員や書店営業担当者の態度には納得できないものがある。ましてや,雑誌担当が数年で異動になって,雑誌の出版社や内容について利用者にきちんと答えられず,学術雑誌の機能がなんたるかもわからないような図書館員が,電子雑誌やネットワークに手を出すことなどもってのほかである。
さて本題に戻る。先日,(K社でない)M社の「一括納入システム」の現場を見学させてもらったが,購入外国雑誌全タイトルの受入業務は,十分にアウトソーシング可能であると感じた。国内雑誌についても手数料の上乗せがリーズナブルな額ならば,購入国内雑誌タイトル数の8割がアウトソーシングの対象になる。物流に関しては結果として,図書館では直接購読や寄贈・交換でしか入手できない特殊な雑誌を中心に処理することを考えればよいことになる。さらに,電子取引が可能になれば発注や支払の際の伝票記入なども省略できる。電子媒体でも購読できる雑誌は,ネットワーク環境を整備すれば,製本や書架スペースも不要になるので,紙媒体より3割ほど割高な購読料を支払う価値はある。雑誌を中心にすえれば,雑誌と研究者の仲介をする図書館員さえ不要になり,バーチャル図書館や電子図書館が出現する。これが,雑誌業務のアウトソーシングにおける最も単純で楽観的なシナリオである。
3.アウトソーシングの今後
経費も人員も増加する望みのない図書館の場合,「図書館側の環境整備」さえきちんと整えば,「得意分野や重要な業務」に資源を集中的に投資して,「戦略的にあまり重要でない部分」を外部化するアウトソーシングは一つの方向であろう。その際に問題になるのは,何が得意で,何が重要で,何が重要でないかの判断である。また,図書館側の環境整備については,さらに調査を進めてから,別の場所【注4】で展開していく予定である。
参考文献
- 長谷川豊祐. 外国雑誌の価格問題--国内代理店新方式の概要とその得失--.
図書館雑誌. 87(9) pp.669-672 (1993.9)
- 佐々木克彦. 企業図書館とアウトソーシング. 情報の科学と技術.
47(5) pp.238-244 (1997.5):この論文は,論題が「企業図書館とアウトソーシング」とあるために,雑誌係や大学図書館員の目に止まらないが,大変に示唆に富んだ内容である。 アウトソーシングとは,もともとコンピュータシステムの構築・運用・管理・保守に関する業務を,外部委託することを指していたが,今ではあらゆる業務について,主にコスト面の有利さから外部委託することをすべてアウトソーシングと呼ぶようになってきている。高度成長期には拡大と成長によって人件費などのコスト増加を吸収できたが,拡大と成長の望めない低成長期及びマイナス成長期には,リストラやリエンジニアリングによって解決しなければならない。アウトソーシングはリストラ手法として推進されている。
- URL:http://www2d.meshnet.or.jp/~st886ngw/diary/diary911.htm#bm3
- URL:http://www2d.meshnet.or.jp/~st886ngw/
- 牧野昇. アウトソーシング--巨大化した外注・委託産業--. 経済界,
1997.11, 211p.(\1,400 ISBN:4-7667-8147-3) 『巨大化した業務委託・人材派遣産業「アウトソーシング」が,次世紀の合理的経営を支える。いまや自動車産業や情報産業を越える勢いの新産業・アウトソーシングの全貌と,その可能性を解き明かす。』
- プロセス・リエンジニアリング Process-Reengineering
生産過程そのものの改変をふくめた新しい技術体系の確立をめざそうとする活動。生産技術、管理技術、販売技術などを総合的に革新することによって、合理化をダイナミックにすすめようとする活動でもある。プロセス、つまり生産から小売りまでの全般的な、あるいは個々の企業活動の過程を検討しなおすことで、むだな工程や非効率な部門をあらいだす。ついで、それらを削除したり組み合わせをかえることでコストを削減し、迅速で合理的な事業活動をくみあげていくことを目標とする。
Microsoft(R) Encarta(R) 97 Encyclopedia. (C) 1993-1997 Microsoft
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- リストラ Restructuring リストラクチャアリングを省略した言葉で、日本では企業再構築または事業再構築と訳している。長年つづけてきた事業が環境の変化に適応できなくなり、これまでの経営方針の見直しをせまられ、将来的にどのような方向にすすむべきかを再検討することであり、具体的には、将来的な展望から事業自体を売却することなどがあげられる。
たとえば、最近のアメリカの有名なケースであるゼネラル・エレクトリック社(GE)がある。GE社はマーチン・マリエッタという航空機事業部をボーイング社に売却したが、これはGE社の経営戦略を変更し、航空機事業から手をひくことを意味した。そして、重要なことは、その売却資金をもとにして新しい事業分野にのりだすことをも意味するのである。
このケースのように、会社売却あるいは事業売却(ダイベスチャー)によるリストラは、M&A(合併買収)が当然のようにおこなわれる欧米社会ではあまり問題とならないが、日本のようにM&A戦略をこのまない社会ではことなった意味でつかわれている。すなわち、リストラの名のもとにおこなわれるのは、おもに人減らしや経費削減策である。とくに、不況下においては会社のホワイト・カラー層の生産性が問題となり、人員削減策の一環としてリストラがおこなわれている。
企業は、たとえば科学技術の進歩や社会情勢の変化、そして消費者の好みといった企業をとりかこむ環境変化をよりはやく察知し、事業内容をかえていかなければ、企業自体の存続があやぶまれる事態を生じることになる。日本の企業の場合も、これからは将来的にのびる事業へ進出するためにむだな事業から手をひくことが予想される。実際、多くの企業で企業活性化の手段が講じられており、リストラとともにさわがれたリエンジニアリング(業務の根本的革新)とか、ダウン・サイジング(規模縮小)といった方策をとらざるをえなくなってきている。そして、最終的に企業は本来の意味でのリストラをすることになっていくであろう。
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